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片桐秀子さん
薬を買いに来る人、測定をしに来る人で、店内はまるで病院近くの調剤薬局のような盛況ぶりです。店内の雰囲気も独特。歌を口ずさみながら歩く人、片桐さん親子と世間話をする人、薬の説明を受ける人と様々ですが、みんな楽しそうです。
奥の壁には昭和12年に撮影した店の写真が飾ってあります。勿論、白黒で看板文字は今とは逆の右から左。近所の高木写真館さんが撮ったものと思われますが、変色もせず見事に残っているところをみると、相当な腕前の写真師が「三仁堂さんのためなら」と力を込めて仕上げた様子が伺えます。初代、吉太郎さんの人となりが浮かぶ写真です。間口は現在より広く、店前の街頭もたいそう立派で、昭和初期の西荻窪銀座通りを髣髴とさせます。
それから数年して、時代に暗雲が立ち込め始めたころ、西荻窪界隈には軍人さんの家が沢山あったので、吉太郎さんは一軒一軒注文を取って回り、商いを続ける一方、西荻窪衛生班の無料奉仕をして地域に貢献していました。三仁堂の精神が、ここにも息づいています。
今でも馴染客と会話を交わし、元気な顔を見るのが生き甲斐になっているようで、今は亡き常連客がローソクを「お灯明」「「御明し」と言って毎月買いに来られた話などを懐かしそうに話していらっしゃいました。
三代目の秀子さんは、三仁堂の精神を大切にしながらも、新しい経営感覚を取り入れ、ホームページを通じての健康情報の発信をしています。「うちは調剤薬局の資格を持ちながら、ドラッグストアにないきめの細かさでお客様に接していきたい」と話されました。
人間の自然治癒力とか、自然なモノの持つ力とか、そういうことをもっと大切にすべきだと思います。骨粗鬆症、貧血、便秘などは食生活を見つめ直すことで、かなり改善するはずです。風邪をひいても漢方薬で治るくらいの体力を維持できるような「身体づくり」をすることが大事。そのため自然の恵みに育まれた健全な食事が大切です。もう一度生活を見直し、親の務めや自己管理の向上についても真剣に取り組んで欲しいと願っています。それを実現するためには、顧客との対話を大切にして、必要な情報を提供できる店にならなければ、と日々努めているのです」と秀子さんは話していました。
店内は、漢方あり、化粧品ありで特別に変わった薬局ではありませんが、違いがあるとすれば、薬を売れば薬局の仕事は終わりとは考えていないということでした。人と人とのつながりを大切にしながら、顧客の気持ちになって商いをしているのがよく解りました。
定休日 日、祝日、年末年始
文:澤田末吉 写真:富澤信浩
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